
「ただの腰痛だと思っていたら…」高齢者の腰椎圧迫骨折で考えさせられた話
「ただの腰痛だと思っていたら…」高齢者の腰椎圧迫骨折で考えさせられた話
ある日、お嫁さんからお電話をいただきました。
「数日前から腰が痛いみたいなので、一度みてもらえませんか?」
来院されたのは、80代の女性。
お嫁さんが付き添いで来られていましたが、院内には入らず、入口付近で見送る形でした。
その時のお二人のやり取りや距離感から、なんとなく関係性も伝わってきました。
ご本人は、お嫁さんには少し気の強い話し方。
ですが、院内へ入ると急に表情が柔らかくなり、「数日前から腰が痛くてね」と穏やかに話し始めました。
年齢相応の円背姿勢もあり、まずは基本的な確認から始めました。
・骨密度について言われたことはあるか
・転倒や尻もちをついたことはないか
・いつから痛いのか
ただ、最初はなかなか本音が出てきませんでした。
「そんなことはない」
「特に何もしていない」
歩くこともできていましたし、日常生活もある程度こなせている状態。
ですが、痛みの出方には少し特徴がありました。
筋肉疲労というより、“骨に響くような痛み方”に近い印象がありました。
何度か質問を重ねる中で、ようやく少しだけ本音が出てきました。
「尻もちはついてないけど、車の座席に勢いよく座った後から痛くなった。」
ここで、どこか少し違和感が残りました。

高齢者の場合、軽い衝撃でも腰椎圧迫骨折が起きることがあります。
特に骨密度が低下している方では、転倒のような大きな外傷がなくても起こるケースがあります。
ただ、ご本人はそれを認めたくない様子でした。
そして同時に、お嫁さんへ弱い姿を見せたくないという気持ちも感じました。
お電話で、お嫁さんが「病院を勧めても嫌がってしまって…」と話されていた理由も、なんとなく理解できました。
もちろん、この時点で骨折を断定できるわけではありません。
ですが、総合的にみると、軽度の腰椎圧迫骨折の可能性は十分考えられる状態でした。
そこで私は、一度ご本人の意思を尊重することにしました。
ただし、施術内容はかなり慎重に進めました。
腰部や脊柱へ積極的な刺激は加えず、他の部位を軽く整えながら、腰の状態確認を続ける程度に留めました。
その流れの中で、雑談のような形で少しずつ話をしました。
「年齢によっては、いつの間にか骨折することもあるんですよ。」
「軽い衝撃でも起きるケースがあります。」
ですが、その時もご本人はどこか他人事のような反応でした。
最終的には、「少し楽になりました。次はいつ来ればいいですか?」という流れになり、3日後の予約となりました。

腰椎圧迫骨折とは?
腰椎圧迫骨折とは、背骨の骨が潰れるように変形してしまう骨折です。
高齢者では、骨粗鬆症によって骨が弱くなっていることが多く、
転倒だけでなく、軽い尻もちや座る衝撃などでも起こることがあります。
また、軽度の場合は歩けてしまうケースもあり、
「ただの腰痛だと思っていた」という形で見過ごされることも少なくありません。
特に、
・急に腰が痛くなった
・動き始めに強く痛む
・骨に響くような痛みがある
・高齢で骨密度低下を指摘されている
こういった場合は注意が必要になります。
再来院時も、症状は大きく変わっていませんでした。
そして、ご本人の考えも変わっていませんでした。
再び慎重に対応しながら、受診について少しずつお話を続けました。
ですが、その場では「病院へ行こう」という流れにはなりませんでした。
数日後、お嫁さんから再びお電話をいただきました。
「先生の話を聞いて、本人が“病院へ行ってみようかな”と言い出したんです。」
受診の結果は、軽度の腰椎圧迫骨折。
お嫁さんからは、
「昔から病院嫌いで、強く言うと怒ってしまうんです。」
というお話もありました。
今回のケースで強く感じたのは、“正しいことを伝えれば人が動くわけではない”ということでした。
年齢、性格、家族関係、プライド、不安。
そういったものが重なることで、病院受診そのものが難しくなるケースもあります。
正直に言えば、今回のケースも、私が何か特別なことをできたのかは今でもわかりません。
もしかしたら、何も言わなくてもご本人は受診されていたかもしれません。
ただ、ご本人も困っていた。
ご家族も困っていた。
だからこそ、その時できる範囲で、できるだけ慎重に関わることを大切にしました。
今回の経験は、私自身にとっても非常に考えさせられるケースとなりました。

